麦秋と呼ばれる季節です。麦の刈り取りが終わり、あちこちの田に水がひかれる頃になりました。そして、田植えが終わった田も日に日に増えてきています。
車を運転しながら、私はふっと「夏は来ぬ」の唱歌を口ずさんでいました。この歌は、日本の名曲100選に入っているそうですが、五番まであるこの歌の歌詞を知っている人は、相当ご高齢の方かもしれないなあと思いました。でも、この季節の歌なので紹介しておきましょう。
卯の花の匂う垣根に時鳥 早も来啼きて
忍び音 洩らす 夏は来ぬ
五月雨のそそぐ山田に 早乙女が裳裾ぬらして
玉苗 植うる 夏は来ぬ
二番までの歌詞だけ見ても、垣根や山田くらいはイメージできても、卯の花、時鳥、忍び音、早乙女、裳裾、玉苗など分からないという人も多いのではないでしょうか。実は作詞をした佐々木信綱が平仮名で書いていたところを、分かリやすく漢字に書き換えてみたところもあるのですが、それでも現代の生活の中では この惰景をイメージすることは難しいと思います。ラップを好む若い人たちが頭韻や脚韻をたくみに使って作詞しているのを横目に見ながら、こういう言葉や文語体は消えていくのだろうなあ・・・と、ちょっと寂しく思いました。
そんなある日のこと、水田に鳥の群れを見つけました。水を張った田んぼは他にもたくさんあるのに、一枚の田だけに集っています。そして、何かをついばんでいるのです。みみずか、田にしか雑食の鳥がついばんでいる物はわかりませんが、余りも多くが群れているので、しばらく見入ってしまいました。帰宅すると、電線に止まっていた三羽の鳥のうちの一羽が何と飛ぴ下りてきて、隣家のブロック塀の上に止まったのです。私の目と鼻の先、二メートル位の距離です。よく見ると、くちばしの広い「はしぶとがらす」です。そしてじっと動こうとしません。黒くてつやつやした何とも美しい色をした鳥です。いつもゴミをあさっている姿とはまるで違います。私に「ねえ、見て見て。これが鴉の濡れ羽色なのよ。」とまるで見せつけるかの様に目だけをくるっと動かしてみせました。私は、こんな一瞬に心の安らぎをもらっているのでしょう。有難う。
2024.06.10 発行