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大垣つれづれ

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大垣つれづれ

大垣のいい評判もあります

 昨年8月の「つれづれ」で、「ちょっと気になる大垣の評判」を書いた。司馬遼太郎と田辺聖子の文章の、不評とは言わないまでも、いささか物哀しいイメージに綴られた大垣の印象に言及したのだが、昨夕、たまたま立寄った酒家で、お客が見つけてお宅のことが載っていると届けてくれたという本を見せて貰い、大垣を訪れてこんな好印象を持った方もあると知って嬉しくなった。以前書いたものとバランスをとるためにも、その内容を少し紹介したい。布施克彦さんというひとの『男なら、ひとり旅』という新書判の一冊である。お歳は私より8つ若く、まさに団塊の世代に属する方である。大学を出て総合商社に勤め、何度も海外勤務を経験されたのち、早期退職して移った会社も55歳で辞め、以後、独立して仕事をされる傍ら、物書きとしていろいろな本を著しておられるようである。2007年に刊行されたこの本は、「旅をするならひとり」が持論の著者が経験を通して語る、中高年の男性を「待ち受ける偶然の出会いを楽しむ」自然体の旅に誘う本である。
 布施さんは2005年9月中旬、商談で長浜に行き、帰りは米原からの電車で大垣へ向う。彼は東京深夜発大垣行きの有名な鈍行列車ゆえに、寝過ごして終点まで行ってしまった酔払いを除き、「大垣は首都圏のサラリーマンにとって、遥かなる未知の街だ」と言い、それを通勤客の乗りにくい全車指定の「ムーンライトながら」に仕立てたJRを呪う。布施さんは今回、その「未知の街」を初めて訪れるのである。さてひとり旅の醍醐味のひとつは良い居酒屋に出会うこと。布施さんはビジネスホテルのフロントに「できる飲み屋」はどこ、と聞く。この聞き方がすごい。私も旅先で同様なことをするが、「感じがいい」とか「おいしい」とか言ってしまう。さすが旅のプロは台詞が違う。しかしこの布施流の問いはみごと成功、飲み屋としても「できる」、そこで働くひとも「できる」わが酒家に行きあたって大満足するのである。
 「駅の近くの裏町を歩くと、チラホラとよさそうな飲み屋が数軒ある」。なかなかの感想で、「暗い水底を歩いている思い」の司馬遼太郎とは大違いだ。こうして入った店は「郷土の英雄と同じ名前」で、ここで馬刺しと厚揚げを肴に辛口の地酒を愉しみ、ご機嫌になった布施さんは店の人と会話したいのだが、繁盛していてそれが叶わず、ひとり勝手な妄想に耽る。しかし記述はこの「できる」店のことだけでなく、さらに1ページほどを費やして的確な大垣案内までしてくれている。「むすびの地」の由来をきちんと説明したうえで、「大垣城の外堀・・・水門川は直角に曲がりながら、大垣を北から南へと流れている」と街の構造まで紹介する。自噴水とそれで冷やす水饅頭に言及することも忘れない。大垣にとってまことにありがたい旅人である。


2012.7.17