暑い日が続いています。外に出ると日射しの強さに驚かされます。昔は暑いと言ってもこんな強い日射しではなかったと思い、ふとエジプトの強い日射しを思い出しました。そして同時に何故エジプトに行ったのか……と思い出したのです。それは娘の「お母さんは一度も私と二人で旅行に行ったことないよね?」の一言でした。
実は昔、私はこだわりの強い自閉症の男の子を担任したことがありました。その家族はとても仲の良い一家で、自閉症の子にはいつもやさしい姉がつきそっていてくれました。弟の手をつなぎ、世話を焼くのですが、その姉と弟の姿は何ともほほえましく、私もお母さんも安心しきって二人を見守っていたものでした。
弟の育児はとても大変で、小学校に入学後も度々パニックを起こし担任が変わるたびに問題行動?が起きたのでした。お母さんと一緒にその都度対策を考え、育児の相談はずっと続きました。
弟が施設に入所した年のことです。お母さんから涙声の電話がかかってきました。
「先生、どうしましょう。姉が『一度でいいから私と二人だけで買物に行ってほしい』と言うんです。」と。
私はしまったと思いました。私たちは、やさしくてとても良いお姉ちゃんと思っていた彼女の心の中の辛さや寂しさに少しも気づいてなかったのです。
たった一度で良いから弟の手をはなしてお母さんと二人だけの時間をもちたいと願っていたことを見逃してしまっていたのだと、その時私たちは気づかされたのです。
彼女はその後も長く様々なことで傷つき心を病むことにもなりました。
私はこの姉弟の一家とずっと関わって来ましたが、気づけなかったことへの後悔をずっと持ちつづけてきました。だからこそ娘の一言が胸に突き刺さったのです。
当時、娘はきっと悩んでいたのでしょう。灼熱のエジプトでの数日が娘に何をもたらしたのかは分かりません。ただ、どの子もそれぞれに口に出せない思いを胸にしまいこんでいるに違いないのです。
この暑さの中、子どもたちはどうしているのでしょう。ことばに出来ない思いを気づいてあげたいですね。でも本当に暑いです。
2025.8.15 発行