桜を愛し、日本酒を愛し、日本を愛する近藤さん。大学時代の友人、駒澤健さん(37)と協力して「さくら酒店」を立ち上げたのは2013年4月5日。桜の季節だ。しかし、初めから酒店を開業するつもりはなかった。祖父も両親も教師という家庭に育った近藤さんは、教師への道を歩むべく、地元の岐阜県立大垣北高校から金沢大学文学部に進んだ。転機はアメリカ留学のために始めたアルバイト。石川県の酒造組合のアンテナショップで働いたのが大きなきっかけとなった。「石川県の酒を知ってもらおう」と、しっかりと前を向いて活動する造り手の姿から、日本酒にはまった」と、言う。さらに「自分を見つめ直す」アメリカ留学を通じ、アジアからの留学生との付き合いの中で、日本人として生きる大切さなどを学んだ。帰国した近藤さんは、同じように兼業リンゴ農家の跡取りでオーストラリアに留学して帰国した駒澤さんと話し合い、2人で日本酒を取り扱う店を立ち上げることを決めた。その後、近藤さんは営業力を付けるために3年間、金融機関で働いた。その後、大阪の酒店で5年半修行を積んだ。この間、料理に合う酒、酒に合う料理、料理と酒のコラボなどを学んだ。駒澤さんも香港や東京で働き、準備を進めてきた。
「日本酒であなたの笑顔をつくります」をキャッフレーズにする、さくら酒店。大垣に本社、東京に東京オフィスを持ち、国内のほか、香港や台湾、シンガポール、マレーシア、韓国などのアジア、そしてヨーロッパやオセアニアなどにも日本酒を輸出している。
近藤さんのもう一つの仕事は「日本酒王子のマリアージュ」。マリアージュとは、フランス語で結婚とか。昨年12月から、名古屋市千種区の輪島塗専門店で始めたのが「大和の宴」。日本の伝統文化を守り、発展させて伝えることを目的に、近藤さんと、輪島塗専門店店主の高橋道子さん、和の作法講師、関村敦子さんの3人が、出張シェフを招いて開く宴だ。提供される日本酒は、あらかじめシェフから献立を聞き、それに合うのを近藤さんがそろえる。和の文化が好きな人たちが毎回10人前後参加して約2カ月に1回開催される。今年10月8日には「第7回大和の宴〜輪島塗と日本酒と和のもてなし」を開き、関村さんが「お箸の語源は」「お箸の持ち上げ方、おろし方」「お椀を持つときには」などの和のマナーについて話した。近藤さんも「『魚』という言葉の語源は酒菜。酒に合わせて食べられることから始まっています」などと、酒にまつわる話をした。会場には、伝統的な無農薬栽培の野菜などを用い、体に優しい料理が用意され、参加者たちはおいしいお酒と料理を楽しんだ。
名古屋市の日本料理店や岐阜市のフランス料理店でも料理と日本酒とのコラボを実践している近藤さん。「人と人、人と酒、酒と料理を仲人する、そんな店を目指しています。日本の文化をトータルに海外にも伝えていきたい」と、夢を語る。
2017.12.01(子林 光和)