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ひまわりからのメッセージ

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ひまわりからのメッセージ

音楽を心の支えに

 小学校の頃から登校しぶりのあったMさんが、久しぶりに訪ねてきてくれました。すっかり少年らしくなって、口数の少ない彼が、学園のホールのピアノを見て目を輝かせました。「弾ける?」とたずねると、鍵盤に向かって弾き始めました。左手の和音が違うとすぐに弾き直し、嬉しそうに自分の音の世界にひたっていました。

 Mさんのピアノを聴きながら、遠い昔にジュリエット・アルビン女史のチェロを真近で聴いた日を思い出しました。「音楽療法」が日本ではまだ耳新しかった時代でしたがアルビン女史のチェロは私の心に静かに豊かに染み入り、音楽は心を癒してくれるものであることを実感させてくれました。もう四十年以上も前のことです。

 私の父は四十歳を過ぎて授かった一人娘が自分たちの死後の心のなぐさめにしてくれれば・・・と、ピアノを習わせてくれました。十二年間も習いながら音楽大学に進まなかった私でしたが、夏になると国立音大に出かけて、リトミックやソルフェージュ、即興演奏などを学びました。そして、その縁で音楽療法にもアルビン女史にも出会ったのです。

 けれども私は、音楽療法士にはなりませんでした。自分自身の音楽の力が余りにも貧しいことを知っていたからです。

 Mさんに触発されて、久しぶりにピアノに向かいました。ショパンやモーツァルトの世界とは程遠くなってしまったけれども、遠い昔の両親の思いは、確かにありがたかったと今にして思いました。

 私は音楽が好きでたまらないという人間ではありませんが、Mさんにとって、今、音楽はよろこびであり、とても大切なものなのでしょう。いつまでもピアノの前から離れようとしないMさんでしたが、これからきっと前向きに歩んでいくに違いない、いや、そうなってほしいと思ったことでした。


2012.6.12 発行



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