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ひまわりからのメッセージ

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ひまわりからのメッセージ

大切な教えを心に刻んで……

 わが家の玄関に木彫の「一期一会」の額が飾ってあります。私がかつてひまわり学園でつかえた故北山俤索園長が手彫りされたものです。俤索というお名前の由来は、胎内に在った時に父親を亡くされ、年齢のはなれた、お兄様が「おもかげをさぐる」と命名されたと伺いました。

 ひまわり学園は、昭和四十七年に重度肢体不自由児母子通園施設として開設された施設で、当初は脳性小児まひや筋ジストロフィーなどの病気をかかえているお子さんが殆んどでした。歩くことはもちろん座ることも難しい子、発語が未だの子、食事は誤嚥してしまう子などでしたが、一人ひとりが懸命に生きている子たちでした。私も開設当時のことは知りませんが、保護者の方々の長年の熱意と悲願があったと聞いています。

 そんな学園に園長として赴任されたのは、行政官で、福祉の専門家ではありませんでした。今の世は何でも資格が幅をきかせるようになってしまいましたが、私は人としての生き方を北山園長から学ばせていただいたと思っています。

 こんなことがありました。運動会練習の折のことです。体の不自由さをもつ子ども達の支援や介護には力が必要です。抱き方や体の支え方も一人一人ちがいますから職員も疲れます。休憩時間になって一人の職員が職員たちにお茶を配ろうとしました。その時、北山園長は、ポツリと「子どもたちには無いのかな…。」と言われたのです。物言えぬ子ども達の手は汗ばんでいたのに、職員が誰一人としてそれに気づかないことに心を痛められたのです。いつも寡黙な園長の静かな声でしたが、その表情には深い哀しみが見てとれました。

 今、どんな人も福祉に介入できる時代になり、子どもたちの通所の事業所も続々と開設されていきます。でも、本当に子どもたちのことを第一に考えて、将来を見通して療育がなされているのでしょうか。保護者を支えつつ、共に子育てをしていく姿勢は当然あるでしょうが、ふと福祉の闇を感じることもあります。

 わが家の玄関の額の前に佇むと、北山園長の声が聴こえてくるように思います。𠮟られたことは一度もありませんでしたが、穏やかな声で「おまはんは大事なことを忘れとらへんかな…。」と、内面を問われている気がするのです。大切な方をまた一人亡くしました。


2022.2.21 発行



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