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ひまわりからのメッセージ

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ひまわりからのメッセージ

本物の美しさ

 いつの間にか蝉に代わって庭先にすだく虫の声が秋の訪れを感じさせる頃になりました。一昨日の朝は、秋明菊に黄あげはが、昨日はとんぼと蜆蝶が止まっているのを見つけました。近寄っても飛び立とうとせず、視野狭窄が進む私の目に、しっかりとその姿をとどめさせてくれました。

 今日は、何だか池田太郎さんに会いたくなって、書棚から『人間らしさを求めて』を取り出して来ました。池田太郎さんは滋賀県の信楽青年寮の寮長として障がいのある人たちを支えてきた方で、若い頃の私の心の師でもありました。(といっても、直接親しく口をきいたことはなく、唯一の接点は私の論文をほめて下さったこと位なのですが……)1984年に出版されたその本の中に、知的障がいのある人たちを永源寺の紅葉を見せに連れていったことが書かれています。永源寺といえば紅葉の美しさで知られていますが、「そんなものを見せに行く位なら、花より団子で何かを食べさせた方が良い。」と言った職員もいたそうです。しかし、実際に行ってみると紅葉の美しさに見とれている姿があって、どうせわからないだろうと思ったことを反省されたとのことでした。

 私は以前にも同じような話を聞いたことがありました。とある障がい者施設で有名な狂言師の方が入所者を前に演じられた後で「今日は非常に楽しかった。ここの皆さんは笑うべき所で笑っていただけて、本当に演目をわかって下さった。」と言われたというのです。

 知的障がいの人に紅葉の美しさはわからないだろう、狂言がわかるはずがないと思うのは、自分は健常者だと思っている人たちの思い上がりなのだと思います。美しいものを観たり、聴いたり、感じたりするのは、理屈ではなく心の眼なのでしょう。

 世の中は、耳をふさぎたくなるようなニュースばかりです。人はどこまで人らしさを失くしていくのだろうかと思う昨今ですが、そんな中で小さな生き物たちが見せてくれる美しさは、ひとときの安らぎを私に与えてくれます。季の移ろいは目には見えないけれど、感じる心さえなくさなければ、いつだって本物の美を見ることができるような気がしています。


2019.9.9 発行



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