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ひまわりからのメッセージ

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ある少女との出会い 〜原点に立ちかえって〜

 年を重ねてくると、自分の人生を振り返ることが多くなります。

 私がなぜ障がいをもつ子どもたちと関わろうと思うようになったのかというと、遠い昔に一人の少女との出会いがあったことに思い到ります。私の両親は東京から疎開してこの地に住みついたので、私たちは、いわゆる余所者でした。私は疎外感をもっていましたし、おまけに病弱でもありましたので、小学校の校庭に一人ぽつんと居る少女の姿が自分と重なって見えたのかもしれません。

 知的な発達がゆっくりだったその少女を家に招いたこともあり、いつの頃からか私は福祉の道を志すようになりました。

 しかし、父は、私の選択を良しとはしませんでした。「自分の優越感ではないのか?」「偽善者ではないのか?」
「障がいをもった人と、人としてどの様に向き合っていくのか?」「お前自身の生き方をどう考えるのか?」 今、思い返してみても、哲学的な命題を与えられたような、父との会話であったと思います。そして、父が最後に出した結論は「四年間の猶予」でした。「大学四年を経てもなお福祉の道を志すのであれば、その時は黙って送り出そう……。」というものでした。

 私の大学在学中に、かの少女は天に召されてしまいましたが、少女との出会いがなければ、おそらく今の私はいなかったことでしょう。

 春、庭先のクリスマスローズが白や赤紫の花をつけはじめました。庭の木草の息吹を感じると、また力をもらいます。「私たちも応援しているよ。」と背中を押されているように思います。そして原点に戻ろうと思うのです。

 けれど、障がいに関する本さえ無かった時代と、情報があふれすぎている現在と、人の心はどう変化したのでしょうか。誰もが気軽に福祉に介入できるようになった反面、営利事業として起業する人々も増えて、子どもたちも大人も利便性に流されていくような危うさも感じます。そして行政は、障がいをもつ子どもたちの未来を真剣に考えた施策を進めていってくれるのでしょうか。

 私は心の中に疑念や、哀しみ、怒りなどを持ちつづけながら来年度に向けて、また一歩、歩み出そうと思います。

 庭先では、うぐいすが啼きはじめました。


2017.3.13 発行



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