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船町川湊が国の名勝に

 奥の細道の旅を終えた松尾芭蕉が桑名行きの舟に乗った船町の川湊が国の名勝に指定された。「おくのほそ道の風景地」として全国13か所が択ばれた中のひとつである。本の題名が平仮名表記になっているのは、西村家に伝わったゆえに西村本と呼ばれる素龍清書本の題簽(だいせん)が芭蕉自筆とされており、それに倣ったのであろう。いま中学の教科書もすべてこの表記を採用しているようである。名勝指定は大垣市で初めて、岐阜県で6件目、ワンランク上の特別名勝を含め本年4月1日現在、全国で414件ある国指定名勝のひとつとなった訳である。もちろんいま見る景色は芭蕉が見たままでは無いが、文化庁は芭蕉の旅を想起させる趣きが現地に残ることを評価したようである。水門川の北の貝殻橋と南の高橋に挟まれた部分と、それを囲む樹木の中に碑や灯台が立つ一画が対象になっている。
 今回の『おくのほそ道』にかかわる名勝の指定は、平成23年度から24年度にかけて文化庁が行なった「名勝に関する総合調査」(平成25年4月に報告書)と関係があろう。この調査は全国各地の未指定・未登録の風致景観や歴史的庭園などを地方公共団体(県や区市町村)に報告してもらい、それによって名勝として捉えるべきものの大勢をつかみ今後の文化財保護に役立てようというものであった。名勝の多くが自然的な要素と人文的な要素が分かちがたく絡み合ったところに存在するのは当然だが、報告書を読むといろいろ興味深い視点が書き込まれているのが注目される。「特定の文脈に基づく一群の景勝地の保護」もそのひとつだ。すでに宮沢賢治の心象世界を形造る「イーハトーブの風景地」として、種山が原やイギリス海岸など、賢治の愛読者には懐かしい花巻周辺の7か所がまとめて名勝指定されている。またアイヌのユカラに謡われる北海道の聖なる土地8か所も択ばれている。全国から集めた調査票を整理した表には、この種のものとして「『おくのほそ道』に関連する景勝地」という項目が樹てられて10件が並んでいる。
 おそらくこれが今回の指定に繋がったのであろうが、しかし場所はあらためて選定し直されたようで、わが船町川湊も新しく登場したものに属する。この選定結果には意外性もあり、おやそんなところがあったかと、あらためて『奥の細道』の本を繙かせる効果もある。いっぽう松島、中尊寺、立石寺といった人口に膾炙した句がある場所が入っていないのは、すでに指定が行われている(松島は特別名勝、中尊寺境内は特別史跡、立石寺は史跡・名勝)からだろうが、「おくのほそ道」という括りをするのであれば、再度それに組み込むことがあっても良いかと思える。それにしてもけばけばしいパチンコ店が姿を消し、またそのあとに高層マンションが建つことも無くてむすびの地記念館が建ったがゆえの名勝指定である。地元の方々の景観を整える努力が報われたことを喜びたい。


2014.4.21