大垣市赤坂町の金生山の山頂近くにあり、境内からは濃尾平野が一望できる。境内地とそこからの眺望は大垣市の景観遺産(風景資産)に指定されている。今月12、13日には今年初の縁日となる「初こくぞう」が開かれる。明星輪寺を守る住職の冨田精運さん(62)は両日とも本堂で参拝客を迎え、訪れた人の今年1年の願いがかなうように読経を続ける。
明星輪寺の長男として生まれた冨田さん。「物心がついたころから寺の跡を継ぐものだと思っていた」と言う。高野山大学で4年間学んだ後、同寺に戻り、約8万9100平方メートルと広大な境内で畑仕事や山仕事をしながら、僧侶としての修行を重ねてきた。境内の雑木で作る炭焼きも10年近く前までしており、「暖房には火鉢を使っていたので、オイルショックの時でも耐えられた」と笑う。
これまでも実質的に住職として寺を守ってきた冨田さん。1昨年3月、90歳を過ぎた父・精信さんから、正式に跡を継ぎ中興 15代目住職となった。
「初こくぞう」初日の12日の夜は、境内駐車場で護摩木を燃やして祈願する「柴燈(さいとう)護摩」があり、福徳・知恵・技芸上達を願う多くの人でにぎわう。暗闇の中で護摩木が燃え上がると幻想的な雰囲気になる。訪れた人たちにとっては寒さから夜景が余計にきれいに見え、その夜景を楽しみに来る人たちもいる。両日とも午前9時過ぎから甘酒の接待もある。
初こくぞうには、西濃地方を中心に、遠くは大阪や名古屋市などからも訪れる。夜遅く、家族で参拝する人も多い。12日は深夜まで参拝する人が続き、中には本堂でめい想したり、虚無僧姿で尺八を吹く人もいる。
景気の良かったバブルの時代は日曜日と重なると2日間で約3万人が訪れたが、今では半分とか。冨田さんは「今年は12日が日曜日なので、たくさんの人に参拝していただきたい」と期待する。
石灰石の採掘が続く金生山。明星輪寺が建つ山の周囲では姿を変えてしまった所もある。「地元の人たちから『ここだけは残してほしい』と、言われている。山を後世に残すのが私の使命」と、語る冨田さん。若いころには、境内に桜の苗木を植樹していた。この20年ほどは「山寺で見る紅葉の景色を楽しんでもらおう」と、モミジの苗木を境内に植えている。これまでに約500本植え、今では初冬になると真っ赤に燃えるように色付き、この紅葉を見に訪れる参拝客もいる。
さらに、無数の奇岩怪石が群立する本堂上の自然公園「岩巣公園」や境内に生息する「ヒメボタル」や「金生山陸貝」を大切に保存したり、パソコンで仕事をしていて、夜が良く眠れない人のためにと「安眠健康のお守り」を売り出すなどして、本山を持たなく、檀家のない古刹を守っている。
かつては市長や市の幹部たちも訪れ、地元の若手経営者たちと市の将来について論議を重ねた明星輪寺。3年前からは毎年秋に体験博「おむすび博」の一環として、プチお寺修行体験も行われ、参加者たちが寺の歴史を習ったり、座禅や写経などをしている。「親しまれる寺」への、冨田さんの挑戦はこれからも続く。
2014.01.03(子林 光和)