「大垣いちご園・苺一笑」の開園は2015年6月。大垣市社会福祉協議会を2014年春に退職した伊藤さんは、JA全農岐阜のいちご新規就農者研修所(岐阜市)で同年6月から1年間の研修を受けて就農したのだ。いちご園の敷地面積は約4200平方メートル。このうちいちごを栽培するビニールハウスは約1900平方メートル。このほか、いちごをパックに詰めてJAに出荷する作業棟やいちご育苗棟などもある。ハウス内では約1万1000株のいちごが植えてあり、11月下旬から翌年の6月中旬まで収穫する。伊藤さんのいちご園は、露地(土耕)栽培ではなく、障害者も働き易いように、いちごを植える栽培漕を地面から1メートル強高くした高設栽培。現在、栽培して出荷しているのは、岐阜県で誕生した「濃姫」。伊藤さんによると、いちごは足が速いので真っ赤になる直前に収穫してその日のうちに出荷するという。取材に訪れた日も、伊藤さんやパートの女性たちが朝早くからハウスの中で作業。赤く実ったいちごを収穫しては、作業棟で大きさをそろえて次々とパック詰めにしていた。卵ほどの大きさのもあり、伊藤さんたちは「甘酸っぱくておいしいですよ」と、にこやかだ。
大垣市社会福祉協議会でケアマネジャーや生活福祉、地域包括などを担当してきた伊藤さん。30歳を過ぎたころから「障害を持った人と一緒に何か仕事をしたい」と考えていたという。工場の一つのラインを任せてもらう仕事、パンづくり工房、喫茶店など色々と悩んだ。その結果、たどり着いたのがいちご栽培。同県海津市平田町でいちごの栽培をしている父親のアドバイスを受けてJA全農岐阜の研修所で座学から実際に行う苗づくりやハウス栽培、収穫、出荷などを学んだ。農業経営なども学んだ。父親の指導も受けた。
伊藤さんは「いちご栽培は天候に左右され、予測したようには育たない。さらに、気温が低すぎると休眠状態になり成長しない。温度が下がり過ぎないようにしなくてはならずコストもかかる。病気や害虫の被害も出る。就農1年目は病害虫にやられて苦労しましたが、2年目の今シーズンはなんとか思ったように良いいちごが収穫できそう。甘くておいしくてきれいないちごがたくさん収穫できた時の喜びは格別。いちごだけでなく、農業は難しい。農業は毎日毎日、毎年毎年が勉強。それがまた楽しい」と喜びや苦労を語る。
「障害を持つ人たちに働いてもらうためには、経営的にも安定させなければならない。研修所で1作、就農してからはまだ2作。3作、4作と作り続けていく中で障害者と一緒に作業ができるようにしていきたい。とりあえず今シーズンは10トンの収穫を目指している。今のところは順調にきているので、3〜4年先には何とかしたい。パートで働いてもらっている人にも私の思いは伝えてあるので協力してもらえるのでは」と、やる気と愛情あふれる伊藤さん。願いが1日も早く実現できることを祈りたい。
2017.02.01(子林 光和)