「アミターバ」とは、サンスクリット語。意味は、永久に無限の恵みをもたらす光明。漢字にすると「阿弥陀」だとか。施設には洗面所や収納家具付きの居室18室、和室の家族室1室、ストレッチャー浴室やリフト浴室を備えている。食事は、外部の給食専門調理師が用意してくれる。現在、末期がんや難病の患者ら12人が利用している。さらに、医療者と宗教者がいる「カフェ・デ・モンク」(談話室)を併設している。「モンク」は英語でお坊さん。カフェ・デ・モンクはお坊さんの喫茶店。施設利用者だけでなく地域住民と臨床宗教師、宗教者の心の触れ合いの場であり、研修の場でもある。祭日を除き、毎週月、水、金曜日の午後1時半〜4時に開いている。在宅患者のために訪問診療も行う沼口さん。「カフェ・デ・モンクは閉鎖的空間でなく、地域住民も利用できます。施設利用者の家族も居室でなく、ここで臨床宗教師らのスタッフと話し合っています」と、施設の効能を語る。
沼口医院は、医師であり、僧侶だった父親が1962年に境内の一角で開業。地域医療に熱心に取り組む評判の医師だった。その父親の後を継いだ沼口さん。2000年2月に現在地に医院施設を新築。「アミターバプロジェクト」の挑戦を開始した。第一弾として2011年「沼口訪問看護ステーション・アミターユス」を、14年には居宅介護支援事業所「ケアサポート・アミターユス」併設した。これによって通院が難しい人に対しても24時間、365日、医療・介護のサービスの提供ができるようになった。次に取り組んだのが、臨床宗教師が常駐する「メディカルシェアハウス・アミターバ」。臨床宗教師とは、末期がんや難病などで死と直面する患者や家族に寄り添って話を聞き、心のケアをする人。苦しみを和らげるのが目的で、仏教やキリスト教などの宗教、宗派を超えて活動する。東日本大震災が契機となり、被災者に寄り添うために東北大で養成講座が開かれたのをきっかけに臨床宗教者を育てる動きが生まれたと言われる。対象は主に僧侶、坊守(住職配偶者)、神父、牧師。宗教心理学や精神保健学などの講義と実習の後に修了書が与えられる。現在、全国に約150人いると言われている。沼口さんの施設には4人がいるほか、研修を積んでいる人もいる。
自身を「白衣を着た僧侶」と言う沼口さん。「人間は論理的にすべてが解決できるものではない。死んだら終わりの生命しか扱わない医療だけでなく、いつまでも『いのち』に寄り添う医師でありたいし、推進したい。臨床宗教師を目指す研修生がいろんな場で活躍できるようにしていきたい」と、優しいまなざしで話す。やはりお父さんと一緒で地域の人に寄り添い地域医療に真っ直ぐに取り組む医師だ。
2016.10.03(子林 光和)