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水晶のような心根の美濃人

 テレビの「秘密のケンミンSHOW」は息の長い番組だが、変わった食習慣などは扱うものの、県民性といったたちまち異論が出そうな危ういところに踏み込まないのが長続きの秘訣のようだ。けれど500年ほどまえに、日本全国にわたって、それをずばずば言ってのけた本がある。『人国記』である。昔は「ニンコクキ」と発音していたらしい。著者は不詳だが、信濃の国がいちばん誉めてあるので、信濃出身者が書いたのだろうということになっているようだ。古くは僧形になって諸国を廻ったという伝説(謡曲「鉢木」のように)のある最明寺殿北条時頼が著したとされ、この本を愛読した武田信玄もそう信じていたようだ。降って元禄時代になって、地誌に興味を寄せる関祖衡(せきそこう)が、原本に手を入れ、今で言う県民性がそれぞれの国の気候風土に由来するゆえんを明確にし、各国の地図を加えて刊行した。旧本と区別するために、『新人国記』と呼ばれている。ちなみに関祖衡は、芭蕉の「奥の細道」の旅に随行した曾良の友人である。
 旧新ともに主文はほぼ同じ内容だから、ここでは「新」に従って、美濃人についての評を見よう。「この国のひとの様子は、心根がきれいで水晶のようだ。しかし水晶といえども磨かなくては光らない。磨けば光が出やすくなる理屈で、いくら生まれつき水晶のきれいさがあっても、そのままでは粗石(あらいし)に終わってしまう。西美濃のひとは作法もやわらかで言葉も風流に映る。東美濃のひとは天成自然のままの姿である。日本国にあって四、五と言えるほどの良い性格である。ただ天成そのままゆえ、すべてが生地で、ために時として卑俗になることもある。このあたりに気をつけて良く垢を落せば、著名なひとも出、他の手本ともなろう」。これはこの本では信濃に次ぐ高評価である。常陸など、「盗賊が多く、その罪が明らかになって処刑されても恥と思わない」と書かれてしまっているのだから。
 風土性ゆえの国人の性格を云々するこの本は、美濃人の「水晶のような心根」を誉めるばかりで、いわゆる輪中根性には言及していない。「旧」は時代的に触れなくて当然だが、「新」の刊行は元禄14年(1701)である。思うにそうした話が定着するのはもっと後のことなのであろう。ただこの地方で良く言われる割には、私は殆どそんなものを感じたことがない。そもそも厳しい現実が生んだ輪中人の思いを則地域エゴと捉えてしまうのにも問題があろう。それよりも東京ではあまり感じることのない同窓生同士の結束の強さのほうをつねに体感させられるのだが。


2013.9.17