昼の間、にぎやかに鳴いていた蝉の声が、夕暮れが迫るとパタッと止み、代わって虫の音が高くなります。
八月も終わり、秋の気配が感じられるようになったと思っていましたら、我が庭先で秋明菊が咲きはじめました。雑草の茂る庭に、白花に先がけてピンクの花が二輪咲いた朝、思いがけず黄の揚羽蝶が止まっているのを見つけました。羽を閉じ、かすかな風に秋明菊と共に揺れているのです。近寄っても逃げようとしないので、嬉しくなって写真におさめました。ところが、次の朝も蝶はやって来ていて、近づくと羽根を広げて見せてくれます。三日目、四日目と、早朝に必ず秋明菊に止まる蝶を、何度もカメラにおさめました。
でも四日目、ふと心配になりました。我が家には、至る所にくもの巣が張っていて、私もよく引っかかります。蝶がひっかかっては大変……と思い、見える限りの巣をはらっておきました。でも、五日目、蝶の姿は庭にありませんでした。毎朝の出会いを楽しみにしていただけに、その日は一日、何となく落ち着きませんでした。
その夜のこと、ふと厨房の窓を見ると、外に何か小さなものがぼんやりと見えます。何だろうと思ってガラス越しに目をこらすと、すりガラスに小さな小さな手が見えました。そうです。守宮(やもり)です。我が家にいつも来るのは三匹。以前は二匹だったのが、いつの間にか三匹になって、今年また、赤ちゃんやもりが生まれたのです。それにしても何と小さく、かわいい手でしょうか。室内から見ると、余りにかわいくて、しばらく見とれてしまいました。
「先生はストレスをためないのですか。」「何故、いつもパワフルに見えるのですか。」と、色々な人にたずねられます。特に何かトレーニングをしているとか、食品にこだわっているわけでもありません。でも、考えてみると、日々の生活の中で出会う草花や樹樹や虫たちに心いやされているのかもしれません。もちろん、子ども達からも刺激とパワーを一杯もらっています。
未来から来て、過去へと過ぎ去っていく時の流れの一瞬一瞬が尊い時間なのだと今更ながら思うのです。小さな生き物との出会いを楽しみにしながら……。
2017.9.11 発行